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コラム
力士の怪我
 非常に嫌な話題ではありますが、力士にとって避けて通れない話であります。平成16年より公傷制度が
廃止され、力士達は怪我との戦いがより一層厳しくなります。昨今の力士達の怪我の多発については、
マスコミから相撲ファンに至るまで、稽古量の低下や体重増・食べ物の変化など散々言われています。確かに当人の自覚不足からくる怪我もありますが反面、そういう一部の力士を見て今の力士は体が弱いと一刀両断されるのは、実際に戦っていた現場の人間としてはやりきれない思いがあるのも事実なのです。ですから昨今の力士の怪我の多発の原因を究明するなどということは、他の相撲研究家の方にお任せして、ここでは実際に最近まで相撲を取っていた人間の目線で述べさせて頂きます
 「出世した人間で五体満足な人間はいない。皆悪いところをもっている」程度の低い怪我でも辛抱出来ずに稽古を休んでしまう力士がよく言われる言葉です。この言葉に漏れずに、春日野部屋の関取衆も全員が
土俵での戦いに加え、自らの怪我との戦いの日々を送っています。ここでいう戦いとは実際に痛めた怪我との治療はもちろん、痛みを再発させないようなケア、新しい怪我をしないための取組みも含まれています。
体一つで勝負するこの世界、世間一般の方のように怪我をした時点で治療に取り掛かり、痛みが無くなった時点で治療が終了では、とても通用しないのです
 栃乃洋関の肘の怪我。白いサポーターがトレードマークのようになっていますが、あのサポーターの下には
伸縮の包帯が巻かれ、更にその下にはテーピングでしっかりと固定されています。その作業だけでも大変な
ものです。自分の肘のその日の状態によって緩めたりきつく締めたりして、その日の取組・稽古に臨みます。
普段のケアの甲斐があり、思い切った左差しからの攻撃が冴え渡っているのは、皆さんがご存知の通りです
 春日錦関。腰と膝と肩でかなり苦戦しました。幕下の頃は腰を強くするために治療はもちろん、独自に習ったトレーニングで懸命の調整をしていましたが、なかなか全快に至らずに苦しい思いをしました。現在はその時代に覚えた体との付き合い方に加え、怪我をしにくい体を作る為のトレーニングも完全に自分のものに
しています。課題であったバランスの悪さが改善され、上半身と下半身の一体化した相撲が取れるように
なってきたのは、怪我をした時に得たものが大きかったからです。
 足首、ふくらはぎの怪我で栃栄関も何度か休場しています。加えて若い衆の頃は蓄膿の手術の失敗で大変な目にあったのは、ここをご覧の方ならご存知の方多いと思います。怪我をするしないは体の柔軟性が
支配する部分が多々あります。怪我が落ちついてきた最近でも、稽古場で下半身のストレッチにはかなりの時間をかけています。本場所での足首のテーピングは付人の棟方が担当しています。一言にテーピングと言っても、自分の体を守る大事な作業です。棟方自身、膝の大怪我で出世を阻まれており、関取と付人という関係ですが、互いに助言しあいながら良い状態に持っていく努力を怠りません。
 なんと言っても新小結で迎えた場所の足の親指の怪我が大きいのが栃乃花関。全身を使って戦う格闘技ですから、体のどの部分も大事ですが、その中でも足の親指と言うのは重要度が高い部分です。要と言っても良いでしょう。しかも治療に時間が掛かり歯がゆい思いをしています。ほんとうであれば休んでも何も言われないような状態でも本場所に出場する真面目な性格ですので、その辺りが心身共に現在まで影響しているかもしれません。
 再十両を決めた栃不動は網膜はく離です。しかも程度は重い方です。本場所でここ一番の相撲は頭から当たる時もありますが、これ以上悪くならないか心配になってしまいます。
 以上、賞賛ばかり並べても仕方ないので若い衆に目を向けると、やはり番付に比例して怪我への対処、
予防という意識はぐっと下がってきます。自分の付いている関取という良い手本があるのですから、その辺を勉強しなければなりません。よく入院した力士の美談として(ベットの下にトレーニング器具が・・・)という
話があります。これは美談でも何でもなく、極当然の行為なのですが、その辺の意識から教えていかなくてはなりません。病は気からといいますが、入院先でも体を鍛えるような気迫が治癒力を高めるのではないでしょうか?
 実際の春日野部屋力士の例を取り上げる事で、力士の怪我に対する取り組み方の一部を理解して頂けたと思います。怪我をしないための細心の注意を払っていても怪我をすることがあるのに加え、怪我をした時の治療時間の絶対的な少なさは、力士達の精神に大きな負担となります。容赦なく押し寄せる年6場所を
無事に乗り切り、なおかつ強い稽古で心身を鍛え上げ、勝ち続けなければならないのは大変な苦労ですが
プロだから当然といえば当然です。ですので力士の気持ちも分かってくださいなどとぬるいことを言う気は
毛頭ございませんが、負傷の裏には戦いがあるという事さえ分かって頂けたら、また違った相撲の見方が
出来るのではないでしょうか。

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